コラム
Office KK 開設の辞OfficeKK has opened

今回は、Office KK開設後最初の配信ですので、私が今後法律家として活動していく上での心構えを述べ、そのうえで、今後の活動計画を、法の研究・教育活動と法の実践活動に分けて記し、最後に、これらの活動の拠点となるOffice KK建設の経緯についてお話したいと思います。
【法律家としての活動の心構え】
大袈裟な話から始めて恐縮ですが、法の支配とはいかなる理念を意味する言葉でしょうか。また、それはいかなる歴史認識によって正当化され得るものでしょうか。様々な考え方があるとは思いますが、私の考えはこうです。すなわち、
①法の支配とは、ローマ法以来人類が2000年以上かけて蓄積してきた法律家間の共有知に則って社会の諸問題を解決しようという理念のことであり、
②それを正当化し得る根拠は、「西欧型」文明社会2000年の歴史を構成する諸事実に求められ、
③例えば、(a)政治と法が未分化であった古代ギリシャ社会を批判的に克服して成立した古代ローマが、数次にわたる政治的危機を乗り越えて(相対的に)豊かで公正で寛容な社会を築き上げた事実や、(b)敗戦とこれに伴う革命的な政治制度の変革を経て成立した戦後の我が国が、法の支配を受容した現行憲法の下で、(同じく相対的にではあるものの)豊かで公正で寛容な社会の形成を成し遂げた事実などがこれにあたる。
と言えるのではないでしょうか。
しかしながら、法律家間の共有知を発見・発展させるための学問である法律学は、これに隣接する諸学問と無関係に生成・発展するものではありません。各時代における法律家がこの点をどれだけ自覚してきたかは別論としましても、法律学が法の支配の理念に服する社会の期待に応え続けるためには、もう少し刺激的な言い方をすれば、法律学がガラパゴス化しないためには、隣接する諸学問の知見を法律学の中に継続的に取り入れていく努力が不可欠であると言えましょう。そして、現代の法律学が直面している喫緊の課題は、経済学や統計学の知見を習得して法事象を数理的に分析する能力を強化することと分析哲学の洗礼を経た現代倫理学の論理を法律学の伝統的論理と融合させていくことではないでしょうか。私といたしましては、このことを常に念頭に置いたうえで今後の法律家としての活動を行っていきたいと考えております。
【法の研究・教育活動】
当面は、次の三点に精力を集中していく所存です。
1)今月から有斐閣オンラインで連載が始まった「草野最高裁判所判事退官記念座談会―倫理と経済が交わる場としての司法」の遂行
この座談会では、私と東京大学の田中亘教授と各法分野の専門家の三人が、私が最高裁判事時代に記した個別意見を素材として、法解釈のあるべき姿について毎回鼎談します(第一回だけは、私と田中先生との対談です)。
2)「法と経営学」の講義の準備
来年4月からある大学の法学部で「法と経営学」という新しい講座の授業を始める予定で、すでに具体的な計画を進めています。国際経済の最前線に飛翔せんと願う若き優秀な法律家の卵たちに、そのために必要な「翼」を授け得るような講義をしたいと考えています。
3)『法の数理分析』の出版
以前に上梓した『数理法務のすすめ』を改訂・改題した本を作る予定です。
(少なくとも、「ナッシュ均衡とナッシュ交渉解」、「一般均衡分析」、「部分均衡分析」の3章を加筆します)。
ただし、錆びついてしまった数学力の回復からやり直さなければならないため、出版は再来年以降となりそうです。
【法の実践活動】
中心はもちろん弁護士としての活動です。
クライアントの皆様が、善き企業人・善き社会人として幸福な人生を全うできますように、もてる知恵と知識を総動員してアドバイスにあたりたいと考えています。
ただし、Office KKは極めて小規模な組織であることなどから、行う職務は、一業種につき一社のお約束のもとに長期顧問契約を締結してくださったクライアント様に対するものに限らせていただいております(法律事務所様からのご依頼案件は個別の事案に関するものであってもお受けできる場合があります)。
【Office KKの建設】
以上のような活動を行うために私が何よりも必要としたものは、思索やクライアントとの会議に集中できる聖域の如き空間でした。
そこで、建築家の井上勲一氏と建築士の佐藤敏明先生に「最高裁判事室の広さと機能性を維持しつつ、ラファエロの「アテナイの学堂」に象徴的に描き出されているような古典ヨーロッパ的知的空間を再現してほしい」とお願いして作っていただいたのがOffice KKです。
私はここを終の職場として、少なくとも10年、できることなら20年、全力で職務と学業に励む所存です。